借り物のからだ/中川達矢
くのためにあると言えるが、きっと、そうではない。誰かの望みを背負っているぼくのからだは、その誰かのためにある。
きみのからだは、きみのもの。だから、大事にしてほしい、とぼくが思ってしまうと、きみのからだは、ぼくに望まれてしまい、きみのものではなくなってしまう。ならば、ぼくは、誰に何を望もうか。
生を望むことは、同時に、死を望むことだ。生には、必ず、死が含まれている。それでは、死を望もうか。それなら、同時に、生をも望むことになる。死ぬためには、生きていないといけない。死んでからは死ぬことはできない。
きみは、ぼくの死を借りてくれるだろうか。もし、借りてくれれば、ぼくのからだは、少しだけきみのものになる。
望むなら、くれてやる、このからだと死を、そして、生を。
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