叢の日/ただのみきや
 
そう紛れもなく 
これはおれの人生だ
何時でもここを捜し求めていた
おれは畑にも宅地にも変えたくなかった
ここに何一つ建てたくはなかったのだ
だからこんな生き方しかできなかったのか
たいした稼ぎもなく
むしろ金にならないものばかり
夢中になって追い続け
気がつけば
鏡の男は浦島太郎だ
仕舞い支度をしようにも 何一つ
持って行けるものもなく
残してやれるものもない

だがあの叢の
たんぽぽが
蝦蟇の穂が
つる草が
蛙たちの頌栄が
飛び交う蝶々が
水面を打つトンボが
おれが
幼い息子たちが
太陽と水の煌めきが
記憶の中で再構築され
母親の拙い絵に良く似た
二度と戻らない時間の向こう
おれだけの楽園のようなものを
求め続けていたことに
いまさら後悔のしようなど

線香花火
残り火がぽたりと落ち
暗い灰に変わって行く
刹那の狭間にも似て

遠く薄れ
消えて行く
なす術もなく
    没し
     逝く
      叢の夏が
        いま

          瞑る

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