夕暮れの記憶/長月 猫
 
夕暮れ時

十年近く行ってない

お気に入りの場所へ行ってみた

昔は三十分もかけて歩いた道も

今では二十分足らずで着いてしまう

この場所から見るこの景色が

どんなものより綺麗だと感じたあの頃

それが今では

ただの一瞬の風景になっていた

いつからだろう

こんなに心を壊してしまったのは

あの時の夕焼けのように

世界は輝いていると信じきっていた私

ふいに横を見ると

隣にもう一人私がいた

『綺麗だね』

そう言ってすぐ消えた

あたりは夕暮れから

夜へと色を変えた

いつからか

頬を一条の雫がおりていっていた
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