虹の軌道/佐々宝砂
サッカー場には
虹になりそこねたかけらが落ちている。
足も頭もかすりさえしなかった、
何人もが身体をこちらに向けたのに、
とひとつのかけらが嘆く。
飛んでいった方角には誰もいなかった、
そこは虚空みたいなものだった、
ともうひとつのかけらが嘆く。
つながってゆくはずだったパスの、
亡霊たちの嘆き。
試合の勝敗はもはや忘れられ、
虹になりうる強度を持たなかったかけらたちは、
あてもなく空に投げかけられた祈りのように、
いつまでもサッカー場に漂い、
ときおり試合中に、
虹に輝くまがいの軌道を描いてみせる、
優秀なはずのミッドフィルダーが、
ときたまパスを出し損なうのは、
つまりそういうわけなのだ。
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