世界からわたしが消えたら/伊織
世界からわたしが消えたら
悲しむひとはいないだろう
そう口にすると
「親御さんが悲しむよ。」
必ず誰かが
醜い笑顔で鬼の首を取ったように言ってくれる
ナニモシラナイクセニ
母は生まれてこの方わたしをほめたことがなく
アナタは軽率
アナタは不細工
アナタは心まで醜い
アナタを産んで私は不幸だわ、
取り返しのつかないことをした
そう言い聞かされて育った
言い聞かされて
は随分穏やかな表現で
実際のところそれは罵倒であり呪詛であり
泣き喚く母は必ず何もした憶えのないわたしに
謝れ、この出来損ない!
と迫り
その間父はといえば
多額の借金を母
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