まだ生きている人に向けた四章/破片(はへん)
 
Green tea.

 友人の父親が死んだ。脳腫瘍だった。はじめは、ドカタの、現場仕事をしていて足場から落下したのだと。そこで彼は鎖骨を折り、CTだか、MRIだかの診断画像からその腫瘍は発見されたのだと。ぼくはその友人と長く、親子ぐるみでの付き合いもあった。悪性か良性かと、誰にともなく問うと、三日後に悪性だと知らされた。ぼくは怨嗟を口にしたと思う。それは何に対して? わからない。
 彼は、ぼくが見舞いに訪れる度、人間でなくなっていくようだった。人間としての機能の内、まずは挨拶を失う。ぼくが誰だか思い出せなくなった。稀に思い出すのに成功した時だけ、彼はぼくらの知る人間性を再現した。一度快復の
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