足の裏のカタツムリ/茜井ことは
足をどけるとそこには、ヒビの入った白い巻貝が床に貼りついていた。
言葉を失うとは正にこのことで、わたしと母は、しばらくその床に貼りついたカタツムリだったものを眺めることしかできなかった。数分間は経っただろうか、怒りとショックを抑えながらやっとの思いで母は
「……この子も、埋めてあげなさい」
と言った。わたしも無言でこくんと頷き、ティッシュペーパーにその残骸をそっと包んでは、今までのように家の周りの土を掘って、カタツムリを埋葬した。
かくして、わたしのカタツムリとの生活は幕を閉じたのである。粉々になったオパールは、今もわたしの記憶の中で輝いている、などということはなく、もはやあの残骸の姿ですらわたしは正確に思い出せない。
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