傘の似合う日/草野春心
 


  傘の似合う日
  けれど雨はふっていない
  ベッドで女がねむっている
  醜く大きな口を開いて
  その腕に巻かれた腕時計の針が
  淀みなく回っているのはひどく滑稽だ
  きっと身体の中には一本の土管があって
  更にその中にもう一人の女がねむっている
  コンクリートの硬さ冷たさも厭わず
  滴りくる汚水を額にあびて
  傘の似合う日
  けれど雨はふっていない
  重く嵩張る雲はやがて
  山の向こうに追いやられるはず
  ドアノブにぶらさげた深紅色の傘を
  彼女は忘れて帰るのだろう




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