青春/乾 加津也
気がつくと
幻影は去っている
残された静けさが
開放感と
自分であることの証しの取引が済んだことを
物語っている
不思議なもので
心の中から自由がきたとき
彼は門の鍵のことを憶えていないと言った
狂喜のようなものとともに
自らの別の精神から現れ
自らにあるすべてを自律し
そして初めに還ってゆく
選択も、憐れみもなく
わたしもまた知らなければならないのは
青春と呼ばれる
境界線の険しい国の
選民だったという事実か。
(事実はでも
真実にとどく
唯一の布石なのでは?)
彼は驚きとともに知り、考え、疑い
否み、憤り、反抗する
止んだときに嘆き、悲しみ、学び
そして門を出た
独りには慣れている
もういちど発つことに疲れのようなものと
ほんのわずかな痛みを感じている
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