脱走したひとへの恋唄/佐々宝砂
 

きみにわかるように
しるしをつけておく
どんな姿をしていても
きみが私を見つけられるように
きみもしるしをつけておいてくれ
私がきみを見分けられるように
でもどうか変わり続けてくれ
きみが吸血フィンチに変わっていても
ゾウガメに変身していても
私は驚かない
私たちはゴキブリではないから
いつまでもどこまでも
変わり続けるろくでなしで
あてにできず
正しくもなく
羅針盤を捨ててしまおう
進むとか退くとかいう概念も捨ててしまおう
きみとの再会は
もうほとんど不可能だという気がするけれど
しるしだけは忘れないでくれ
それだけは変えないでくれ
きみというアイデンティティーが
この世から消えても
しるしだけは残しておいてくれ
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