海/笹子ゆら
う
わたしたちはことばをあつかい
それをいのちとし
うまく利用しながら
この世界を生きようとしている
それなのに
海はそれを知らないままに
ただそのまま
しずかにたゆんでいる
当然のように
わたしたちの浅いことばたちは
空気中に融けて形をなくし
意味もなくしてしまう
なにしろ そこに意味など ないのだ
ある必要がないのだから
だから
人には海が必要だ
それは広大でなくてもいい
美しくなくてもいい
ただ そこに鎮座しているだけで
風にゆられて波立たせるだけで
それだけでいい
それだけで
わたしも あなたも
確かに救われ
ことばを持たないままに
こころにふれあうことを
静かに許されるのだ
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