ショッピングカート/灰泥軽茶
 
日雇いのアルバイトで一日中駅前の交差点で
新築マンションの案内プラカードを持つ仕事をしたことがある
蛍光色のジャンパーを着て
太陽の光と影の動きを肌で感じ
人の流れをじっと眺める退屈なバイトだった

一人の老婆はとても違和感のある
佇まいでショッピングカートを押しながら
虚空を見つめていた

サラリーマンは皆サラリーマンで
主婦は皆主婦で
大学生は皆大学生であることがはっきりわかるのに
その老婆はとても肌艶良く
滑らかな外国語と日本語を喋りそうな異邦人のようだった

少し肌寒くなり夕日の色が街を覆い始めた頃
古びたマンションの屋上に
先ほどの老婆が現れたかと思う
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