投身台のあなた/花形新次
展望台から見える海は
絶世の美女が濡れるような色を湛え
白内障の濁った水晶体の前に
波をひとつ、またひとつ寄せる
風速30mのなかで
物理学者が叫んだように聴こえたのは
軽やかすぎて、怖いから、か?
いいえ、船長
物理学は重さの科学ではありません!
だからといって時間の科学でもありません!
結論は、身を投げるための科学だということです
きみは頭が少しばかりおかしいから
あっちへ行きなさい
船長がそう仰るんでしたら
わたしはあっちへ時速10kmで移動します
ちなみに展望台から船長と枯れ果てた枯葉を
同時に落としたら
枯れ果てた船長と枯葉は同時に海に落ちることになります
それを忘れないでほしい、いつまでも
きみの気持ちはわかった
でもそれが
身を投げる理由にはならないだろう
ガッデム、シット!
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