おさかな おいしい/中村 くらげ
陸では息継ぎも困難になり
私は海に潜ったのです
息の詰まる人波を泳ぐには
シュノーケルでも心許なくて
長湯に逆上せないようにと
私は冬を選んだのです
ふやけた心臓は張り切って
蹴り出された血は巡り巡る
海の中から見た空は
伸びれば触れそうな程近く
滲み出る涙も相俟って
とても綺麗な青濁色
ゆりかごの上にいるような優しさに甘え
美味しい魚を食べて漂い暮らすのです
また今日も目前に現る天の恵み
尾鰭を靡かせ誘うように泳ぐ君
嬉々として大口を開け頬張ると
その先に怪しく光る強情な糸
嗚呼 人生は巡り巡る
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