影のような男/草野春心
よれよれの野球帽をかぶった
一人の男が歩道に立って
車の往来を眺めている
肌寒い初春の朝に
ジャンパーのポケットに突っ込んだ
両の手をもぞもぞさせながら
男は私を見向きもしない
強い風が街路樹を揺らすと
それに合わせて身体を揺らす
木の落とす影のように
初めに白い閃光がきて
それから激しい雷鳴が響く
名もない何処かのビルの一室
巨大な無数の機械がカタカタと動き始める
あなたの肩は雨に濡れ
私の耳は聴こえなくなる
揺れる木の影のように、
もう誰も引き返せない
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