心の化石/ただのみきや
 
られて
闇の向こうへと流れ去って行きました

やがて孤独の岸辺に打ちあげられ
公正なお天道様と世間様の目に晒されますと
人々の噂や嘲笑が蛆のようにたかっては
その微かな名残をも喰い尽して行ったのです

陽に焼かれ
風に鞭打たれ
雨ざらしにされては
また
干からびて

残ったものはと申しますと
それは心の固い芯
怒りに憎悪
怨みに辛み
羞恥や嫉妬に恐怖心
嗜虐の笑み
残忍な殺意
誰も喰うことなど到底できはしない
頭蓋のような
鬼の部分でございました

やがて気の遠くなるほどの歳月が堆積致しますと
おんなの心からはだんだんと思念が抜けて行き
結晶のような像だけを留めたのでございます

それは負の金剛石
遥か昔の悲しい心の化石でございます
さても不思議なことではございますが
それは時空を超えて唐突に
古い家屋の押入れの中や
古物商の店先などに忽然と現れるのです
ところが人は何ら不思議とも思わずに
それを面として飾るのでございます
昔から見て知っている
般若の面として

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