不眠症/花形新次
 
二時半は、二時半で、いつだって
ロッキングチェアの揺れない時刻だ
海辺の街でもないのに
波の音が聴こえるのは
朽ち果てた夢のせいか
それとも途切れ途切れの記憶のせいか
家族の温もりが残るリビング
虚ろなフランス人形と笑い声
ワインとジャズとフットボール
互いが入り混じり
斜め方向に交錯する思考は
今度は沈黙の側に立って
傍観者を決め込んでいる
喉の奥に痞えた痕跡 
激しく咳き込んでも
吐き出すことのできない後悔
何故生まれて来たんだという問いかけは
今に始まったことではない
亡霊たちがじっと見ている
哀れんで祟ることも忘れ
亡霊たちがじっと見ている
眠れると言うことは
生きていると言うことだ
その意味では
俺はおまえたちの仲間かも知れない
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