人間ドック/草野大悟
 
明日人間ドックに行こうとしているのは
まぎれもなくあの時列車に飛び込んだあの人だ。

鏡を眺めながらしんみりと
最近、なんか顔色悪くてねえ
などと話しかけてくる。

そう言われても
なんと返答して良いものやら
まごまご考えていると
すかさず
肝機能障害か、糖尿かも
と畳みかけてくるからやりきれない。

飛び込んでおいてそりゃあないですよ
飛び出しそうな言葉をごくりと飲み込んで
そんな、顔色悪くありませんよ
などと、口先三寸ごまかしてるんだから
またまたやりきれない。

その人は
あの時自分の体を放れた右手を
風花がキラキラ舞う青空にかざして
高々と青空にかざして
何かを掴むように
何かに挑むように
虚空を睨んでいる。




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