人間の声 /服部 剛
「あんた、マフラー飛んでるよ!」
ホームのベンチから立ち上がり、叫ぶ男。
首を後ろに振り向いて、道を戻ろうとする女。
ぶおおぉん――…
ホームに入った電車が視界を、遮った。
のっぺらぼうの人々が佇む
都会の駅の一コマに
鳴り響いた人間(ひと)の声に
(いいなぁ…)と階段の下で
僕も首を後ろに、振り向いた。
こちらの視界に気づいてか
我に返った男は
うつむいてもじもじ、
ベンチに腰を下ろす。
ホームの向こうに小さくなった
女の後ろ姿に、黄色いマフラーが靡(なび)いていた
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