かなしい記憶/千波 一也
 

うすい匂いが溢れてゆきます


すれ違うとしたら
爪の先ほどの
蕾の上で

抱き締め合うとしたら
波間に漂う後悔が
聞こえない頂で

思い出すとしたら
重なり得ない
つばさの
両端で
各々で


穢れていたのかも知れません
はじめから

穢れてしまえるようにと
心遣いがあったのかも知れません
はじめから

曖昧ならば懇願も
きれいな音色に落ち着いて
例えばわたしの硝子戸に
懐いてくれると
思うのです

寂しい刃がひとりでに
よろこびすべてを
葬るならば

信じていましょう
寄り添っていましょう

頷いて
微笑んで
こぼれていましょう




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