かなしい記憶/千波 一也
 


水は
裏切ったりはしないのです

やさしい嘘と
呼ばれるすべに甘んじて
飲み干しかねた
水はあっても

迎える季節を過ちかねて
流れるしかなかった
水はあっても

水は
何をも裏切らないのです


太陽と
とても近いところに
遠い昔が波打っています

だから
わたしは
ふたつの瞳で
ひとつのものを
慈しもうと思うのです

円く
及ぶべき人の思いの根幹を
慈しもうと思うのです


日記のなかに並んだ文字は
傷とよく似た面影です

はね返される
陽射しの底で
形づくられる
祈りの首輪

言葉に出せない密書のような

[次のページ]
戻る   Point(6)