かなしい記憶/千波 一也
水は
裏切ったりはしないのです
やさしい嘘と
呼ばれるすべに甘んじて
飲み干しかねた
水はあっても
迎える季節を過ちかねて
流れるしかなかった
水はあっても
水は
何をも裏切らないのです
太陽と
とても近いところに
遠い昔が波打っています
だから
わたしは
ふたつの瞳で
ひとつのものを
慈しもうと思うのです
円く
及ぶべき人の思いの根幹を
慈しもうと思うのです
日記のなかに並んだ文字は
傷とよく似た面影です
はね返される
陽射しの底で
形づくられる
祈りの首輪
言葉に出せない密書のような
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