淵の眼/
イナエ
水に潜む生き物の
背のように透けて見えると
渓谷の奥に入りすぎた後悔が
体を振るわせたが
私は櫂をこぐ手を一層早めた
櫂が川底こするようになったとき
ボートの左右に小さな淵が幾つも現れ
樹木の音に混じって生きものの
気配が襲ってきた
頭の中で「引け引け」と
声が渦巻いたが
若かった私は声に反抗して
淵の間を縫って進んだ
滝が見えたとき
流れ落ちる水を透かして
こちらを眺めている眼の
気配が全身を貫いた
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