沼しかない街/左屋百色
 
右へ行くと海があり左へ行くと詩があり
ます。そんな街に住んでます。近所の沼
で子供たちは言葉を沈めて遊ぶ。強風。
泥だらけの手を見せなくていい。そろそ
ろ雨が降るなんて言わなくていい。何も
知らなくていい。大人の言葉は全部邪魔
。いらない。道に迷え。教えてやる。
わたし100年前から詩人だから

手のひらに海を乗せクラゲを育てる。そ
んな時間の使い方。古い。ベニヤ板と鉄
クズと言葉でつくられた城。古すぎる。
詩人だけが入れない城。そこから見える
のは沼の反対側。左が海で右が詩。あれ
もこれも同じ。同じです。詩がつくれな
い。詩をつくれ。教えてやる。
わたし100年前から詩人だから

この街に春がきたら言葉で海を囲む。そ
れは本当か。詩に意味がないなら行く所
は沼しかない。城は古い言葉が散乱。誰
もいない。ゆっくり沈む。城。ゆっくり
吹く。風。よく似合う。聞いて恥ずかし
くなる言葉。何回でも言う。ありふれた
言葉。もっとありふれろ。教えてやる。
わたし100年前から詩人だから

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