いつかこの雨が止む頃には/イリヤ
 
干した惰性も、残滓をきらめかせて溶暗してしまう。眼に視えているものはみな雑然と投げだされており、遠近を散りばめた空間をまばらに通り抜ける光は果てしなく遅い。

もうなにもかもがひしゃげている。失った時間を数えあげても両手の空隙からこぼれ落ちてゆくのだが、何度呼び覚まされてもここへやってきてしまうのだろう。だから、きみはきみのじかんをいけよ。

こうしてまた意識の遠近を床擦れてゆくというのに。滴らした明瞭さの濃淡に忘れることさえも能われずただ色褪せている。天井が滲みだしてからもう久しい。ぐずぐずとやるせなくシーリングライトが瞬いて。そのようにきみはぼくをわすれてはくれないのだろう。

この部屋は雨。囚われた空間はふやけて充溢している。寝台は汚い水たまりで。泥水で喉をうるおし、煤けたバスタブに雨水を張る。だけどそれも次第にゆるやかになるのだろう。

いつか。すべてことばたちがおそくなればいい。雨粒一滴さえもが留められる散漫な揺らぎに解けてゆく横顔が景色と均質になるのを待ちわびたままわたしはここに佇んでいる。
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