かなしい/風呂奴
かなしい、
張り巡らされた路線のどこか
車窓は残像をつくるだけだし
吊り革の黄ばみは
誰かしらの時を、わたし以外の
世界の破片を蓄積させ
運びつづける
町から街へ、
昼から夜へ、
人から人へ、
わたしから、あなたへ、
譲る座席もなく
思いやりの芸当は苦役だ
目に見える世界や、
目に見えないあなたのために
発車する満員の言葉たち
そのどれかに乗っているのか
降りているのかも解らない
気分のほつれを
「青い薔薇」や「ガラスの森」に
誘い込もうと
かなしみ、を発った言葉に乗車して
他人のように吊り革を汚した
かなしい、
言葉だらけのこの車両は
どこかに連れてくれそうで
どこにも運んでくれない
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