看取り(5)/吉岡ペペロ
 
息子は仮眠室で眠っている。

ぼくは杉下さんの容態をメモを録りながら聞いている。

今夜は杉下さんのおられる107号室がぼくの居場所だ。

居場所なんて言い方はおかしいのかも知れない。

ぼくの言葉は母国でも少数しか使わない言語だった。

母国にはたくさんの言語がある。日本のように関西弁とかそういうレベルの言葉の違いではない。まるっきり違うのだ。まるっきり違う言葉がたくさんあるのだ。

ぼくらのほんとうの母国は言語のなかにある。母国と他国の国境線なんてものは地形とはまったく関係なく引かれた直線だ。強国が引いたたんなる線だ。

ぼくは杉下さんのベッドのよこでパイプ椅子に腰
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