時の抜け穴/殿岡秀秋
午後三時のおやつの後で
時の抜け穴から
入っていくときに
ぼくは二つにわかれる
もうひとりのぼくは
庭に作る仮装の舞台に立つ
そこで主役を務める
普段のぼくより
威勢がいい
ストーリーは
小学生のぼくが
庭に面した縁側に座りながら作る
花や木がおぼろにゆれると
主役を演じるもう一人のぼくが
無敵の活躍をする
戦国時代に生きていて
一国一城の主になる
そんな気分は現実では味わえない
しかし
役者の時間を終わりにしなければ
ご飯が食べられない
明日学校にいくために
宿題もしなければならない
抜け穴から戻ると
夕暮れになっている
ぼくとぼくが一つになるための
身震いをしてから
家の中にはいる
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