物語へ/草野春心
 
泡立たせたあと、
  その鳥は静かに沈んでゆく



  つめたい夜がやってきて
  物語のなかに一羽の鳥が迷いこむ
  羽にはひどい傷を負い
  両の眼は光を失い
  もう、
  飛ぶことはできない
  その鳥は海岸に立ちじっと空を見つめている



  わたしは話しかける
  部屋の窓はかすかに開いていて
  夜風が入りこんでくるけれど
  寒くはない
  あなたと出会ったとき
  この胸に消えることのない炎が宿った



  わたしが誰よりも愛したあなた
  わたしは語りかける
  怖くはない
  まだ朝を迎えたばかりの
  うすぐらい物語へ



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