物語へ/草野春心
 
――はるな「物語たち」に寄せて



  つめたい夜がやってきて
  わたしの両手の爪を、一枚いちまい
  丁寧にはいでいった



  つめたい夜がやってきて
  物語のなかに鮮やかな朝陽がのぼる
  街を覆い隠していた霧が、一枚いちまい
  優しく脱がされてゆく
  テーブルについたあなたが
  美味しそうにトーストを齧る
  わたしが誰よりも愛した
  あなた



  つめたい夜がやってきて
  力尽きた一羽の鳥がぼしゃんと海に落ちた
  群れを飛ぶどの鳥もそれに気がつかなかった
  狂ったように羽をばたつかせ
  暗い水を悲しく泡立
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