物語へ/草野春心
――はるな「物語たち」に寄せて
つめたい夜がやってきて
わたしの両手の爪を、一枚いちまい
丁寧にはいでいった
つめたい夜がやってきて
物語のなかに鮮やかな朝陽がのぼる
街を覆い隠していた霧が、一枚いちまい
優しく脱がされてゆく
テーブルについたあなたが
美味しそうにトーストを齧る
わたしが誰よりも愛した
あなた
つめたい夜がやってきて
力尽きた一羽の鳥がぼしゃんと海に落ちた
群れを飛ぶどの鳥もそれに気がつかなかった
狂ったように羽をばたつかせ
暗い水を悲しく泡立
[次のページ]
戻る 編 削 Point(5)