野良ペンヶ浜/平瀬たかのり
 
 そう遠くない昔
 高知県の海岸には
 遠洋漁業で命を張ったお父やんたちが
 子どもの土産にと連れ去って帰った
 ペンギンが
 うろうろしていたそうだ
 すぐに飽きられ捨てられて
 浜に棲みつき野良となった
 ペンギンが

 フナムシがさごそ這いまわり
 ウミウシは紫色の液を噴き出す
 触手揺らめかせるイソギンチャクのとなりで
 フグが腹をふくらませている浦戸湾
 その浜を
 ペンギンどもが歩いていったのか
 ふてぶてしくもぶさいくに

 てちてちてちてちてちてち

 波打ち際たたずむ野良ペンギン
 ざんぶざんぶ、岩場から凪に飛び込む同胞たち
 短い首を大きく反らせば
 濃紺の背中にやわらかな陽ざしが光って
 振り下ろすくちばしに突き刺ささった
 うち上げられたばかりの
 ヒトデ

 はるか遠く南氷洋で
 氷が激しくぶつかりあっている


  (参照・西原理恵子『できるかな』〈ふるさと高知編〉)


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