勉強/小川 葉
 


商人だった父が
売り場に行くたびに
まだ高い
勉強が足りないねと
売り場の人を困らせていた

その日から
足りなかった
売り場の人の勉強は
進化していった

その進化はやがて
父を困らせるほどになった
もはや制御できないほどになっていた

もしあの時
あの父の一言が
なかったなら

売り場は
勉強する必要のないまま
あの頃と変わらない
賑いの場であり続けただろう

人に勉強を求めたら
自分も
勉強し続けなければならない

どこまでも
どこまでも
生活よりも
勉強を大切なこととして

命より
大切なこととして

しかし
命より大切なことなど
それまであっただろうか

勉強が足りないね

それはほんの少し
ものを安く売ることだった

あの世から
今も父の
その声が聞こえる


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