夏の話しをきみとする/石田とわ
かぶとむしを採りに行こう
きみがそう言ったのはいつだったか
荒れ狂う嵐の正体が
悲しみだとも気づかずにいた
そんな夏のできごとだった
しずかな山道の電柱のした
かぶとむしたちは集っていた
てっきり山に採りに行くものだと
思っていたわたしは唖然としたものだ
まさか拾いに行くとは思わなくてさ
ゆっくり進む車、照らされる車道
緑の草いきれが充満していたね
あれはきみのやさしさだった
泣いたり、駄々をこねたりを繰り返し
やがて嵐を乗り越えてわたしは泣かなくなり
いつの間にかまた人を好きになっていた
あの夏を思いだしてほしい
思いだせないのならば
わたしにくれたやさしさを
今度はきみにお返ししよう
その顔をあげてくれるまで
夏の話しを聞かせよう
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