硝子篇/平井容子
 
もうありったけの陰を踏んでしまった
気がつけば空はゆるゆるになっていて
気が狂いそうにやさしい
どのまどろみも平等だった
角のはえた恋人がわたしを映して割れていく
心中みたいなラメが散らばり
からすがそれを食べにくる
これで良かったね、と言いながら
羽の影を追って
また新しい子らが
遊歩道へ落ちてくる、午後のさつばつ

あのとき踏んだあの子の骨は
甘かったかな
臭かったかな
会うことはもうないけれど



戻る   Point(8)