塩を 少々/るるりら
さかのぼる 水晶のような 水滴が
高速バスは雨の中を走ると フロントガラスの水滴が
同じスピードで のぼってゆく
静かな行列が たゆまなく のぼってゆく
そんな様子を何時間 見続けていたでしょうか
体が火照るのは
わたしの中の血が のぼっているからで
バスが赤穂をとおるころ
すこし雨が雪へと結晶しかけ
わたしも結晶しかけました
赤穂は塩の町だと思い至らずにいたら
うっかり私は フロントの一粒の水滴になるところでした
ガラスをワイパーが両方から清掃するので
中央の水滴だけが 外気に押し上げられて
扇の形に のぼっていました
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