コーラの泡が弾けてる/木屋 亞万
 
ていく砂糖の溶け切らない甘い願望は
スプーンにかきみだされてしゃりしゃりと砕かれ
それでもスプーンにまとわりつく甘い泥の溶け残る

偉大なホールは穴に限りなく近く
つまり洞窟で叫ぶように反響する空間でなくてはならない
もしもバイオリンを爪弾けば音の気泡がぶわっと拡がり
空間に漂う気体が丸々バイオリンに染められ
粒子となったバイオリンが静止していた空気を飲み干すのだ
マイクロフォンもスピーカーも必要ない
バイオリンの木目の裏側の空洞と
弦を揺らす身体の奥の消化器官という洞窟が共鳴し
角ばったホールを泡で包み込むのだ
震える弦の気位の高い響きが終わるとき
空気はふたたびすっと静止し
その静止をかっさらうようにコーラの泡が弾けだす

手で足早に拍を取る人々の音が
雨のように部屋から噴出し
跳ね返っては降り注ぐ
黒服にだって雨は降る
拍手を避ける傘はない
頭を下げて止むのを待とう

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