沈黙/岡部淳太郎
 
十一月の、乾きであるか、渇き、でもあるのか、赤く褪
色した掌が群れとなって、落ちて、いて、旋回する散歩
道、であった、十と一月(ひとつき)の、時間の名、のなかで、吠え
る犬とすれ違う、犬とこの身は、異なる位相のうえにい
るから、その声は聞こえない、威を借る人であった、か
ら、石は枯れて、いつものように割れて、干からびて、
赤土のうえに、置き去りにされる、水瓶で、あった、そ
ろ、そろ、そろそろと歩く、足だけの人の近づく、音が
聞こえてくる、(風に気をつける、季節です、)えてし
て人というものは、大音声のなかで、気を失うものであ
りますから、神が隠れたこの季節、よくよく背すじ
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