シャッターチャンス/夏美かをる
つけてきた沢山の足跡を
静かに振り返る日々を過ごしている九十七歳
直径一万二千七百五十六キロメートルの
球体の座標上で
ばらばらに存在していた四人が
不思議な引力で私の目の前に引き寄せられ、
直径二十センチのケーキの上に顔を揃えて
一緒にろうそくの炎を消す
私はその瞬間を狙って
私の丸めた両手にすっぽり収まる
六×八センチメートルの枠の中に
慎重に四人を囲い入れた
四時間後
輝く笑顔が四つ並んだ写真を
ダウンロードしながら
私が故郷と呼ぶ場所からは
あまりにも遠い陸地に定められたこの座標点に
偶然とも必然ともつかない作用をもたらした
その力の存在を改めて意識した時
溢れ出た温かい滴が
向かい風にさらされ硬直した私の心を
少しずつ溶かし始めていることに気がついた
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