月あかりの羽ばたき/まーつん
 
霧雨のように 降ってくるのだ

  さらさら、さらさらと
  せわしない ざわめきが…


  月あかりが
  翼を生やして逃げていく
  凪の日の水面に
  大きな波が一つ立ち

  無数の光る
  鳥の群れとなって
  月面を満たす 光の海から
  顔を出し 身をよじり
  水面を蹴って 羽ばたいていく

  鳥の群れは
  真空を飛んでいく
  光る風となって
  星の袂をあとにする

  仮の宿を去っていく
  光の鳥が いなくなるにつれて
  月は 瞬く間に欠けていき
  やがて半月となり
  三日月となり
  闇に沈む

  新月となった

  光の群れは
  しばらくの間
  天の河の岸辺に遊び
  蛍のように飛び回った後
  やがて 思い思いの方角へと
  散り散りに 消え去って行った


  私は 望遠鏡をおろし
  長いため息を吐いた
  それから 目を、ぱちくりさせる

  何も見えない

  その時
  私の周りを包んでいたのは


  全くの闇だった

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