マネキン/まーつん
リという音が転がり、ごろりと大腿が反転する。
しなやかな輪郭を描く、石膏の肌。
その 皺ひとつない表に走る、
黒い亀裂が 露わになる。
丸半年、その体重の殆どが、その右足に懸かっていた。
(腰に左の手を添えて 小粋に右肩を上げるポーズ)
つま先から脛にかけて走る、稲妻の足跡のような、
痛々しい ひび割れ。
ねじを締め、油を刺された、精密な指関節。
その一つ一つを折り曲げて、傷ついた自らの足を 撫でさすり始める。
石膏が石膏を擦る、
その乾いた音。
乾いた音
やがて彼女は
テーブルに突っ伏し
うとうとと 夢を見る
そこで彼女は 人間になり
草なびく 春の丘に腰を下ろしている
ワンピースの裾を揺らす
爽やかな風
麦わら帽子のつばを持ち上げ
蒼い空を見上げる
生きた瞳
そのまなざしは
白い雲を映し
流れ去る
白い雲を映し…
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