雪だよ/はるな
 

猫が転ぶとき
そこには道路と猫とわたしがあって
あたかもおのおの一番遠いもの同士のよう

二月にふる雪はぴらぴらとして細かく
手のひらにのせるまもなくとけ消えてしまう
ひとひらひとひら
のせるまもなくとけ消えてしまう

スーパーマーケットの看板の文字はいつも一文字だけ消えていて
それはさびしさよりも滑稽さよりも
なんだかみょうな力づよさをわたしに見せている

駅前にひとつだけある公衆電話は
いつでも場ちがいに緑色で
そのうしろの街路樹たちからこっくりと浮き上がっている
それが使命みたいに
まるでさだめみたいに

猫たちはのら猫で
たいていいつも飢えている
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