スピンオフ/吉岡ペペロ
 
のどが痛かった。激痛レベルだった。痛いところがあると身動きのとれなくなる自分がいた。

ベッドで薄暗くからだを丸めながらのどの痛くなかったころの自分を思い浮かべた。

英雄色を好む、あのころ自分を奮い立たせる言葉がこれだった。

この言葉を唱えると顔はちから強くニヤケ胸から頭にかけて涼しい風が吹くようであった。

唾をのんだ。痛みに肩がかまえた。そして強い痛みのあと体は悲しく弛緩した。

いまさっき思い浮かべていた涼しい風が幻の荒れ地の隅にちいさく吹いていた。

プレジデントカップの上位入賞をそこに見つめていた。

生まれたばかりの娘のことをそこに重ねていた。


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