灰色の水/草野春心
 


  きょうの朝は、
  灰色の水にひたされている



  人びとは鈍い眼をしてさがしている
  ありもしない排水溝や
  冬の葉のかけら、
  あるいは大切なひとの
  いっぽんの髪の毛か何かを
  きょうの朝、水の底には
  太陽がアメーバみたいな光を落とし
  人びとはそこだけをよけて歩く



  あなたによく似た女のそばを
  誰かの古い長靴が
  ぷかぷかと通り過ぎる
  灰色の水にしずんでゆく
  朝の底で
  わたしのこころは
  単純で
  新円よりも完全な
  ひとつの言葉をさがしている



戻る   Point(4)