アボジ/はらだよしひろ
やくよ 「アボジ」とあんたのまえで言えたのは
日本人のおとちゃんと結婚して 日本人なって
そしたら見事にわたしから朝鮮消えてしもうてた
けどな後悔してへん いまでもおとちゃん好きやし
おとちゃんじゃなければ わたし幸せになれへんかってん
そういう運命やったんよ
ただなあんたらの前でもわたし
おじいちゃんおばあちゃんのこと
「アボジ」「オモニ」言わずに
「お父さん」「お母さん」言うてきたやろ
確かにな わたしはおとちゃんとの結婚に反対されて
駆け落ち同然だった
だからといって何も「アボジ」「オモニ」を
「お父さん」「お母さん」と言い換える必要なんかなかったんや
だから死に目にも会えんかったのかもしれへんとこのごろ思うようになってん
息が白む
幾年が過ぎて
笑うときを刻むのか
重い口を
はくはくさせては
記憶がただの息となって
重ねて 重ねては
消えて 消えないもの
とくとくと流れて
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