アボジ/はらだよしひろ
時は風を越えて
嘶く鳥の藻屑を溶かす
はじめて母が「アボジ」「オモニ」と言った今日
はじめて母が自分の言葉に朝鮮を滲ませた
思えば母の話す言葉に朝鮮語はなく
日本の中で生きてきた自分をどこかに溶かしていたことを
水は流れるままに
山は崩れるままに
ただ在って ただ日々を過ごして
「必死で生きてきたんだ」とさえ
いえない沈黙の中で
日本を生き
昔の家族の群像を
記憶のどこかに留めては
そこで交わされていた
言葉をどこかに捨ててきた今までを
涙した今日
朝鮮語で母を「オモニ」と呼ぶことを知った時
僕は母をオモニと呼びたくて呼びたくて
幾度もオモニオモニ
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)