喪服/salco
その夜半、電話が鳴った
冴え冴えとした月光の前庭を
一本の意図が貫いた時
女は不快な胃もたれの中で横たわり
じっと目を開けたまま
太陽の午後と雑踏の音楽を想っていた
女は喪服にアイロンをかけている
化学繊維と防虫剤の微かな異臭が
思い出のように部屋にこもる
それは死臭のようでもあった
そうだ
女は思った
これは古着の匂いだ、だが新しい
殆ど生まれて初めての、肉に刺さった悲しみだ
薄っぺらなジョーゼットの黒に
落涙しながらアイロンをかけ続けた
色とりどりの季節と服の奥底に
潰れて眠っていたのが死であった
ただ、呼び起こされたのは生の
蒼白い正体
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