ハンカチ一枚/カンチェルスキス
彼は助けを求める声さえうまく出せなかった。
雨の中、傘を差して立っていた。
温かみのある灰色の海が暗闇に変わるまでそこに立っていた。
服の色は変わっていた。
風も雨も激しくなっていた。
街路樹の枝が歩道にいくつも落ちていた。
彼は埋立地の道を左に曲がろうとした。
どこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。
一匹だった。
通り過ぎたばかりの街路樹の下の草むらから
聞こえていた。
雑草をかき分けると、小さな、本当に小さな
黒猫のこどもが必死で助けを求めて鳴いていた。
彼の姿を見ると怯えて草む
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