看取り(1)/吉岡ペペロ
 
に戻るとふたりぶんの夕食をつくった。

タイマーで炊いておいたご飯をボールに入れてそこに卵をふたつ割った。

それをかき混ぜ油を敷いたフライパンで押し付けるようにして炒めた。

裏返して炒めているあいだに大皿をだし皿にシナモンを振った。

皿のうえに茶色いまばらな模様ができた。そこに炒めたものを載せた。

息子とふたりでテレビを見ながらそれを食べた。

シナモンの味の濃淡が相変わらず美味しい。息子も何食わぬ顔をして食べている。

ぼくはテレビに息子をかまわせていた。

そうでなければ自分の着替えも洗濯もその取り入れも食事の支度もできなかった。

それでもぼくと幼い息子はきっちりと生きていた。

きっちりと生きているという事実だけがぼくの日々の空白を埋めていた。





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