ノート(あなたを聴く)/木立 悟
 




水のなかの糸を
口に含んではうたう
うたうままに
消えてゆく


今はひとりでなくなったものが
心に描くひとりきりの地に
あなたは戻りたくないのだろう
まばたきよりも
涙よりも速い雪を
見たくはないのだろう


誰も誰かを見ない夜にだけ
よろよろとよろよろと径をゆき
鏡に似たものすべてを憎み
目をそらし壊し踏みつけながら


あなたが見捨ててきた人々こそが
あなたを見捨てない人々だったのに
もう遅い
何もかも
もう遅い


雪の下の土に腕を入れ
凍えるか咲くか試すことは
しなくていいのだ
もうしなくていいのだ
死ななくて
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