或る少女の日記/aria28thmoon
 


はちみつ色の月の縁を撫ぜるようにして、右手の紅さしゆびが冷たい窓硝子をすべったのです。
ねむたい音楽に身をゆだねるような、それは大変に穏やかな心地で。
やがて窓硝子をはなれた指の先は、ちょうど口紅を掬ったときのように柔らかく染まっていて、
それでつい、口唇に触れてみるなどして、ああ、つめたい。と、
ひどくあたりまえのことを、思ったりするのでした。
つぎに舌先をそっとはみ出させて、ちろり、とその指を舐めてみても、あたりまえのように蜂蜜のあじなどはしないので、
月のあじというのはどんなものなのだろうと、ぼんやりとした空想にふけるのがしあわせでした。

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