「朝おきて鏡の前でつぶやくこと」/ベンジャミン
ありがとうと
一日に一度は言いたい
ありがとうと
誰かに言ってもらうためでなく
ありがとうと
自然に言える自分でいたい
※
きみがいつもと違う顔で教室にきたから
ぼくは近くの椅子に腰掛けて
しばらくくだらない話をした
きみは重たい気持ちのままに開いた口で
精一杯を言葉にしてくれた
もうそれだけで十分だった
ぼくはその答えを持ってない
ただ聞くことしかできなくて
ただ聞くことに懸命になるしかなかった
※
話してくれてありがとうと
ぼくが言ったせいで
きみの涙はよけいに溢れたかもしれない
けれどぼくは本当に
きみにありがとうと言いたかった
答えを持たないぼくに
精一杯を言葉にしてくれたきみに
ぼくが言えるのは
ありがとうしかなかったんだよ
※
一日に一度は
ありがとうと言いたい
誰かに
ありがとうと言ってもらうためでなく
朝おきて鏡の前に立つ
声に出さずに
ありがとうとつぶやいてみる
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